犬猫の肥満細胞腫について|皮膚のしこりには要注意!

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こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。

 

肥満細胞腫は皮膚にできる造血器腫瘍の一種です。皮膚のしこり(悪性腫瘍)の中で、犬では最も多く、猫では2番目に多いともいわれています。悪性度によっても異なりますが、様々な臓器やリンパ節に転移して、全身に悪影響を与える可能性もあります。

今回は犬猫の肥満細胞腫について、原因や症状、当院での診断・治療法をご紹介するとともに、同じくしこりがみられる脂肪腫との違いも紹介します。

原因

肥満細胞腫の発生原因についてははっきりわかっていませんが、高齢の犬・猫に多く発症する傾向があります
肥満細胞腫が発生しやすい品種として、犬ではパグ、ボクサー、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーなど、猫ではシャムが挙げられます。

症状

症状は悪性度やできた場所によって異なりますが、皮膚に発生すると、赤くなって腫れたり、毛が抜けたり、痒みがみられたりします
一般的には1つだけぽつんと現れますが、複数のしこりが散らばって認められることもあります。
また、肥満細胞は炎症を招く化学物質(ヒスタミン)を分泌するため、皮膚のしこり以外にも、消化管潰瘍やショック症状などが現れることもあります。さらに、しこりに対して物理的な刺激を加えると、周辺の皮膚が赤みを増す現象(ダリエ徴候)が起こることも特徴的です。

 

悪性になると、リンパ管を経由して様々な臓器に転移してしまう危険性があります。犬では脾臓や肝臓に転移するケースが時々みられる一方、肺への転移はまれです。

 

ちなみに、肝臓に腫瘍が発生した場合、従来は手術に踏み込むのが難しいこともありましたが、CTスキャンの登場により術前に細部にわたるまで状況が確認でき、手術が適応になる症例が増えています。

 

肝臓腫瘍についてはこちらのページでも解説しておりますので、詳細について知りたい方はぜひご覧ください。

 

当院の軟部外科についての取り組みページはこちら

脂肪腫との違い

肥満細胞腫と同じく、犬猫の皮膚に現れる腫瘍の1つとして、脂肪腫が挙げられます。
脂肪腫はドーム状の見た目をしていて触ると柔らかいのが特徴で、しこりに対して物理的な刺激を加えても、周辺の皮膚が赤くならない点が肥満細胞腫と異なります

 

脂肪腫は良性の腫瘍のため、経過観察になるケースもありますが、大きくなると歩きづらくなり、擦れて赤くなってしまうことで生活に支障をきたすこともあります。
また、詳細に検査をしたところ実は違う腫瘍だったということもあるため、飼い主さん自身で判断せず、必ず獣医師に相談しましょう。

 

具体的には、脂肪腫が疑われても大きくなるようでしたら手術をお勧めします。

診断・治療

皮膚のしこりや赤み、脱毛、痒みといった症状は、他の皮膚の病気でもみられるため、見た目だけでは判断できません。
肥満細胞腫が疑われる場合は、しこりに対して針を刺し、細胞の一部を採取する検査(細胞診)を実施します。肥満細胞腫の場合、ヒスタミンを含む特徴的な細胞が認められることで診断します。ただし悪性度の分類は、しこりを一部採る検査(組織検査)でなければ、正確に判断できません。

 

腫瘍の悪性度や転移の有無によっても治療方針は異なりますが、低悪性度であれば皮膚のしこりを切除することで、おおよそ再発がなく過ごせます
一方で、高悪性度の場合やすでに転移が認められる場合には、化学療法(抗がん剤治療)が勧められます。犬では様々な投薬方法(プロトコル)が提案されていますが、猫では情報が少なく、慎重に経過を観察する必要があります。

予防法

明らかな原因がわからないため、発症自体を予防することは困難です。発生しやすいといわれている品種を飼育している場合には、皮膚の様子を日ごろからよく観察することが大切です
早期発見による早期治療が重要になるため、定期的に検診を行うことや、日頃から体をこまめに触ることを心がけ、上記のような症状がみられた場合は、早めに動物病院にご相談ください。

 

<ポイント>
・肥満細胞腫は犬猫でとても頻繁に遭遇する、皮膚の悪性腫瘍です。
・犬猫ともに好発品種が報告されています。
・赤みを帯びたしこりが1つあるいは複数認められます。
・悪性度が高く転移すると、皮膚だけでなく全身に症状が現れることもあります。
・悪性腫瘍なので、早めの対処が重要です。皮膚にできる腫瘍は見た目だけでは判断できないので、動物病院への受診をお勧めします。
・細胞診で診断し、抗がん剤や手術によって治療します。

 

横須賀・三浦・逗子・葉山エリアを中心に診療する動物病院
つだ動物病院

 

<参考文献>
Diagnosis, Prognosis and Treatment of Canine Cutaneous and Subcutaneous Mast Cell Tumors – PubMed (nih.gov)

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