犬の整形外科手術と術後ケア|治療法・回復のポイントを獣医師が解説
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
近年、犬の骨や関節のトラブルが増えており、ご相談を受ける機会も多くなりました。昔に比べて交通事故による骨折は減少していますが、室内飼育の一般化や小型犬の増加により、前足の骨折や関節疾患の割合は高まっています。また、肥満に伴う関節への負担も見逃せない原因のひとつです。
そうした症状に対して、治療の選択肢として検討されるのが「整形外科手術」です。しかし、手術と聞くと、不安に感じられる飼い主様も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、代表的な整形外科手術の種類や、術前・術後に気をつけたいポイントについて、できるだけわかりやすくご紹介します。
整形外科手術の種類
犬の整形外科手術にはさまざまな方法があり、症状や病気の進行度、年齢や体格などを考慮して最適な方法が選ばれます。
〈骨折整復術〉
交通事故や転落、抱っこ中の落下などで骨折した際に行う手術です。
当院では、SYNTHES社製のLCP(ロッキング・コンプレッション・プレート)システムを導入し、骨折部位に対して骨に優しく、かつ強固な固定を実現しています。LCPは、スクリューとプレートがロック構造となっており、従来のプレートと異なり骨への圧迫が少なく、骨膜の血流を妨げにくい設計です。そのため、骨癒合がスムーズに進みやすく、手術時間の短縮や侵襲の軽減にもつながる、非常に優れたインプラントシステムです。
・プレート固定法
プレートとスクリュー(ネジ)を使って骨を強固に固定します。
・髄内ピン固定法
骨の中心(髄腔)に金属ピンを通すことで固定します。
・創外固定法
骨の外側に金属フレームを組み立てて固定します。開放骨折や複雑な骨折など、皮膚に大きな損傷がある場合に用いられることが多いです。
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〈関節手術〉
靭帯損傷や膝蓋骨脱臼(パテラ)、股関節形成不全などで関節が不安定になっているときに行う手術です。
・滑車溝形成術
「パテラ」とも呼ばれる膝蓋骨脱臼でよく行われる手術です。お皿(膝蓋骨)が正しい位置に収まるよう、骨を削って溝を深くします。
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・脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)/脛骨粗面前進化術(TTA)
前十字靭帯を断裂した場合に、脛骨(すねの骨)の角度を変えることで関節を安定させる手術法です。運動量が多い中〜大型犬でよく用いられます。
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・ラテラルスーチャー法
断裂した靱帯の代わりに外側から人工靭帯を設置して安定させる方法です。小型犬や高齢犬、またTPLOが適応できない場合などによく選択されます。
〈骨変形矯正手術〉
先天的な骨の角度や成長に異常がある場合に行う手術です。
・大腿骨矯正術
生まれつき大腿骨の角度に異常があると、膝や股関節に負荷がかかり歩行障害や痛みを伴うことがあります。角度を矯正し、正しい力のかかり方に戻すことで症状の改善を目指します。
・骨盤三点骨切り術(TPO)
股関節形成不全に対して、骨盤を切り離し適切な角度で再度固定する方法です。股関節を安定させ、痛みや歩行障害の改善を目指します。
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〈当院の整形外科手術について〉
当院では整形外科手術の精度と安全性を高めるため、日本獣医生命科学大学 助教 原田恭治先生を手術アドバイザーとして迎え、AOVET Course – Advances in Small Animal Fracture Managementを修了した院長が執刀を担当し、幅広い整形外科疾患に対応しています。
術前検査・診断の重要性
手術の成功と安全性を高めるためには、正確な診断と十分な術前検査が不可欠です。当院では以下の検査を組み合わせて行っています。
・レントゲン検査
整形外科疾患の初期診断に用いられ、骨の状態や変形の有無、骨折の形態などを確認できます。
・CTスキャン・MRI検査
骨や関節の内部構造を立体的に把握できるため、複雑な症例や精密な手術計画に有効です。
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・遠隔読影VINシステム
当院では難しい症例や判断が必要な画像について、専門機関と連携し、遠隔で画像診断のサポートを受けることができます。複数の獣医師による意見を取り入れることで、診断の精度をさらに高めることができます。
このように、術前にしっかり検査することで、愛犬にとって最適な治療方法を選択でき、手術のリスクを最小限に抑えられます。
術後のケアのポイント
手術が終わっても、そこで終わりではありません。術後のケアが、愛犬の回復を大きく左右します。
1.痛みの管理
病院から処方された薬は、決められた時間と用量をきちんと守って与えてください。もし、痛がっている様子や普段と違う仕草がみられたら、早めに獣医師に相談しましょう。
2.安静に過ごす
手術後は、傷口や骨、関節が回復するまでできるだけ安静にする必要があります。激しい運動は避け、ジャンプなどの動作もしないように注意しましょう。必要に応じて、ケージやサークルで生活させる期間を設けると安心です。
3.食事管理
麻酔や手術の影響で、一時的に食欲が低下することがあります。その際は無理に食べさせず、消化にやさしく、嗜好性の高いフードを少量ずつ与えることをおすすめします。また、関節の健康を維持するための栄養素を含んだ療法食やサプリメントを併用することもありますので、回復段階に合わせて獣医師と相談しながら進めましょう。
4.生活環境の見直し
術後の愛犬は足腰に負担がかかりやすいため、生活環境を整えることが大切です。たとえばフローリングの上を歩くときに滑ってしまわないよう、マットやカーペットを敷いてあげるだけでも、足腰への負担を大きく減らすことができます。また、ソファや階段など、高いところへの昇り降りを控えるため、ペット用のスロープやステップの設置も検討すると安心です。
5.リハビリと定期的な通院
手術の内容や回復の状況によっては、簡単なマッサージや歩行訓練などのリハビリテーションが推奨される場合があります。無理のない範囲から少しずつ始め、筋肉や関節の機能を取り戻していくことが大切です。また、見た目が元気に見えても、内部の骨や関節が完全に治癒しているとは限りません。定期的な診察とレントゲン検査を受けることで、傷の治り具合や術後の経過を正確に把握し、必要に応じて治療方針を調整していきます。
まとめ
・犬の整形外科手術は骨折や関節疾患、骨の変形などに対応する重要な治療法です。
・各手術には適応疾患があり、正確な診断のためにはCTやMRIなどの画像検査が活用されます。
・当院では、専門家との連携(遠隔読影VINシステム)で正確な診断を行います。
・術後は痛み管理・安静・食事管理、生活環境・リハビリの見直しが重要です。
・飼い主様の細やかな観察とケアが、愛犬の回復と快適な生活を支えます。
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