犬の会陰ヘルニアについて┃去勢手術で予防できる
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
会陰ヘルニアは、会陰部にできた筋肉の裂け目(ヘルニア孔)に脂肪や内臓が入り込む病気です。初期は犬の肛門周りが膨らみ、便が出にくくなる程度ですが、早期に治療を行わない場合ヘルニア孔が広がり、腸や膀胱などが入り込む緊急性が高い状態になります。
今回は、去勢をしていない中高齢のオス犬に多い会陰ヘルニアについて、その原因や症状などを解説するとともに、当院での治療の進め方に関してもご紹介します。
会陰ヘルニアについてはこちらでも紹介しています
原因
明確な原因はわかっていませんが、ほとんどの症例が中高齢の去勢をしていないオス犬であるため、男性ホルモンが会陰ヘルニアの発生に関与していると考えられます。
また、お腹の内側からお尻周りに強い圧がかかるような病気(腫瘍、前立腺肥大、便秘など)や肥満、吠えることが多い性格、筋肉が痩せる原因となる甲状腺機能低下症や加齢なども、発生に関わっているのではないかと考えられています。
症状
会陰ヘルニアの最も一般的な症状は排便時の困難です。
ヘルニアにより直腸が圧迫されると、便が通過するのが難しくなり、便秘や排便時の痛みが生じることがあります。その痛みにより排便を恐れるようになることもあります。
また、肛門横の腫れが左右または、片方のみに現れることがあります。この膨らみは徐々に大きくなりますが、初めは小さくて気づきにくいかもしれません。
さらに、裂けた筋肉の間に膀胱が入り込んでしまうと、排尿困難(おしっこが出にくくなる)になります。その場合、急性腎不全を起こす危険性があるため、おしっこが出にくい様子が見られたら様子を見ずにできる限り早めに来院してください。
また、ヘルニア孔に腸が入り込んで腸閉塞を起こすと、嘔吐が見られることもあります。こちらも緊急処置が必要な状態になりかねませんので、お早めに来院してください。
診断
多くは、肛門周囲の触診と直腸検査(肛門から指を入れて直腸の内側から触診する)で診断できます。
ただし、病態の進行度やお腹の中の臓器に問題が起きていないかを調べるために、レントゲン検査や超音波検査、場合によってはCT検査を行うこともあります。
治療
ヘルニア孔は徐々に広がりますが、自然に閉じることはないため、治療の基本は外科手術です。
当院では、「ポリプロピレンメッシュを用いた解剖学的整復法」で、会陰ヘルニアの治療を行っています。
この手術法は、麻布大学附属動物病院 副病院長である渡邊俊文准教授が考案したもので、正常な位置から逸脱してしまった内臓を元の位置に戻し、再び異常な位置に戻らないように精管と直腸を腹壁に固定し、ヘルニア孔をポリプロピレンメッシュという特殊な材料を、骨盤を利用して塞ぐものです。同時に、再発を防ぐために去勢手術を行います。
この方法は、再発率が低く術後の経過も良好なものです。
ポリプロピレンメッシュを用いた犬の会陰ヘルニアに対する新しい整復術に関する論文はこちらをご覧ください
会陰ヘルニアの治療は術後のケアも重要です。
手術直後は痛みがあり、術後の違和感から排便時も強くいきめない場合があるため、便が出やすくなるよう、便の滑りを良くし、便がやわらかくなるよう食事療法を行い、ときには内服薬を使用することもあります。
また、慢性の便秘で結腸が伸びきってしまっている場合は、後遺症として慢性的な便秘が残ることもあり、継続的な食事療法や内科治療が必要になることもあります。
予防法
若いうちに去勢手術を行うことが、この病気の予防になります。
ポイント
・会陰ヘルニアは未去勢の中高齢の犬に多い病気です。
・肛門周りの膨らみと、便秘が初期の症状ですが、ヘルニア孔は徐々に広がり、腸や膀胱が入り込むことがあります。
・ヘルニア孔に膀胱が入るとおしっこが出にくくなります。この状態は急性腎不全の原因になり、命にかかわりますので、様子を見ずに早めに来院してください。
・当院では、数ある会陰ヘルニアの手術法の中でも、再発の少ないポリプロピレンメッシュを用いた解剖学的整復法を実施しています。
・術後のケアも重要で、うんちが出やすくなるよう、食事管理や内科治療を行います。
・去勢手術はこの病気の予防として有効です。
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