【獣医師が解説】犬・猫の低温やけど完全ガイド|正しい温度と予防法
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
冬になると、電気アンカや湯たんぽ、ホットカーペットなどの暖房器具を使う機会が増えますね。大切な愛犬や愛猫のために、ペット専用のヒーターを用意するという飼い主様も多いのではないでしょうか。
しかし、こうした暖房器具の使い方を誤ると「低温やけど」のリスクが高まることをご存じでしょうか。犬や猫は被毛に覆われているため、人間より熱さを感じにくく、やけどが重症化しやすい傾向があります。
今回は、低温やけどの危険性と、安全に暖房器具を使うためのポイントを詳しく解説します。
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低温やけどとは?
低温やけどは、44〜50℃程度の比較的低い温度でも長時間の接触により発生するやけどのことを指します。一般的に「熱い!」と感じるような高温との接触ではなく、「じわじわと進行してしまう」のが大きな特徴です。具体的には以下のような時間が目安になります。
・44℃:3~4時間触れ続けるとやけどのリスクが高まる
・46℃:1時間程度の接触でリスク上昇
・50℃:30分ほど触れ続けるだけでも発症の可能性あり
犬や猫は毛で覆われているぶん、飼い主様以上に熱さを感じにくく、被毛の下でやけどが進行していても気付けないことがあります。人間にとっては「少しぬるい」と感じる程度でも、長時間同じ場所に触れ続けることが低温やけどを引き起こすのです。
危険な暖房器具と具体的な対策方法
◾️ホットカーペット
床に直接敷くホットカーペットは、犬や猫が長時間くつろぎやすい反面、やけどのリスクも高いです。
〈対策〉
・温度は38℃以下が目安です。 飼い主さんにとっては少しぬるいくらいがちょうど良く、じかに熱源が肌に当たらないようタオルやブランケットなどを敷いて熱を和らげましょう。
・長時間つけっぱなしにせず、適度に電源を切ったり温度を下げたりして、犬や猫の負担を減らしてください。
◾️電気あんか・湯たんぽ
電気あんかや湯たんぽは非常に便利ですが、局所的に高温になりやすいため、使い方によっては危険性が増します。
〈対策〉
・直接肌に触れないようにカバーや毛布で包むことで、やけどのリスクを下げられます。
・時々触って確認し、熱くなりすぎていないかチェックしてください。
◾️ペットヒーター
ペット専用のヒーターには、温度調整機能が付いた便利な製品も多いですが、密閉空間で使うと逃げ場がなく、低温やけどを起こすリスクが高まります。
〈対策〉
・「熱い」「嫌だ」と思ったらすぐに逃げられるよう、部屋の中にクッションや毛布など、別の快適な居場所を用意しましょう。
・適度に温度が保たれるものを選び、4時間以上の連続使用は避けましょう。
低温やけどの症状
低温やけどは、その症状の深さや重症度に応じて、次の4つに分類されます。
・Ⅰ度熱傷
軽度のやけどで、皮膚が赤くなりヒリヒリした痛みがあるものの、痕が残らず数日で治ることが多い状態です。
・浅達性Ⅱ度熱傷
水ぶくれができ、ひどい痛みを伴います。愛犬や愛猫が同じ部位を舐め続けたり、触ると嫌がる場合、このレベルの低温やけどが疑われます。完治までには1〜2週間ほどかかります。
・深達性Ⅱ度熱傷
真皮の深い部分までダメージが及んでおり、皮膚の壊死や神経の損傷を伴う可能性があります。神経が損傷されている場合には、痛みを感じにくくなることもあります。治癒にはおよそ1か月が必要で、痕が残ることも多い重症度です。
・Ⅲ度熱傷
やけどが皮下組織にまで及び、神経や血管が損傷している重篤な状態です。神経損傷によって痛みをほとんど感じなくなることもあります。治療には1か月以上かかり、皮膚がケロイド状になる場合は、皮膚移植手術が必要になることもあります。
応急処置と治療方法
低温やけどが疑われる場合は、まず熱源から離すことが最優先です。その後、15〜20℃程度の流水で10〜15分ほど患部を冷やし、清潔なタオルやガーゼで保護した状態で動物病院を受診しましょう。
この際、市販の軟膏などを独断で塗ると悪化する恐れがあるため、必ず獣医師の指示を仰ぐことが大切です。
症状が重い場合、壊死した皮膚を除去する処置や、抗生物質・鎮痛剤などの投与が必要となることがあります。治りかけの皮膚は感染を起こしやすいため、獣医師の指示に従った通院・治療を続けましょう。
愛犬・愛猫の安全な暖房対策
最もおすすめなのは、エアコンで部屋全体の温度を調整しながら、ブランケットやベッドなどで保温する方法です。床暖房を使う場合は温度を人肌程度(30〜35℃程度)にし、上にベッドやブランケットを敷いて、熱源が直接皮膚に触れないよう配慮しましょう。
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また、ペットベッドや毛布の定期的な洗濯・交換も忘れず行ってください。清潔な寝床を維持することで、皮膚トラブル全般の予防にもつながります。
〈避けたい例〉
・ストーブ前で長時間の居座り
・カイロを直接体に当てる
・こたつの中にこもって寝る
いずれも高温になりやすく、低温やけどや脱水症状のリスクが高くなるため注意が必要です。
よくある質問(Q&A)
Q1. 低温やけどに気付くのが遅れた場合、どんな症状が現れますか?
皮膚の変色、脱毛、かさぶたの形成などが見られ、治癒までに時間がかかることがあります。痛みで元気や食欲が落ちることもあるため、なるべく早い受診をおすすめします。
Q2. 被毛が濃い猫でも低温やけどのリスクはありますか?
被毛が濃い猫こそ要注意です。熱さを感じづらい上に、脱毛などの異変に気付きにくいケースも多いため、定期的なブラッシングや皮膚のチェックが特に重要になります。
Q3. 特にどの部位が低温やけどを起こしやすいですか?
皮膚が薄くて柔らかい部分(お腹、脇の下、太ももの内側など)が特にリスクが高いです。こまめに触って異常がないか確認しましょう。
まとめ
・低温やけどは44〜50℃程度の熱源に長時間触れていることで起こります。
・犬や猫は毛で覆われ、熱さに気付きにくいため重症化に注意しましょう。
・初期症状は舐める・触られるのを嫌がるなどの行動変化です。重症化すると皮膚の発赤や水ぶくれが見られます。
・応急処置は「熱源から離す→流水で冷やす→速やかに獣医師へ相談」です。
・暖房器具を使う際は温度管理と逃げ場の確保、定期的なチェックが重要です。
・エアコン+保温グッズの組み合わせが最も安全な防寒対策です。
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