犬と猫の甲状腺検査について┃甲状腺疾患を見逃さないために
こんにちは、横須賀市にある「つだ動物病院」院長の津田航です。
甲状腺は首の左右に1つずつ存在する器官で、下垂体からの刺激を受けてサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)という甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは、新陳代謝やエネルギー産生、タンパク質の合成、脂質の代謝などに重要な役割を持ちます。甲状腺の病気には、犬に多い「甲状腺機能低下症」と猫に多い「甲状腺機能亢進症」があります。
今回は、甲状腺の病気の診断に欠かせない甲状腺検査について詳しく解説します。
甲状腺検査が必要な症状
甲状腺の異常が疑われる主な症状は、以下の通りです。
〈犬の場合〉
・体重増加
・筋力低下
・無気力
・被毛の変化
・目が垂れ下がる(悲観的顔貌)
・脱毛 など
〈猫の場合〉
・食欲が増えるのに体重が減る
・多飲多尿
・落ち着きがない
・攻撃性の増加
・被毛の変化 など
これらの症状は犬の「甲状腺機能低下症」や猫の「甲状腺機能亢進症」に見られるものであるため、甲状腺検査を行います。特に高齢の犬や猫において、「原因は分からないが調子が悪そう」といった体調不良が見られる場合も、甲状腺検査をおすすめしています。
甲状腺検査の種類
甲状腺検査には主に血液検査と超音波検査の2種類があります。
〈血液検査〉
血中の甲状腺ホルモン(T4)の濃度を測定します。軽度の甲状腺機能亢進症では、T4の変化が見られないことがあるため、より正確な診断を行うためにfT4(遊離型T4)の測定も行います。
fT4は血中でタンパク質と結合していない遊離型T4のことで、非常に微量ながらもホルモン作用はfT4の量に依存するため、T4よりも優れた指標となります。
血液検査については、こちらの記事で詳しく解説しています
〈超音波検査〉
甲状腺の大きさや形状、腫瘍の有無を確認します。実際の臨床現場では、甲状腺の腫れは触診でチェックできることが多いため、必ずしも超音波検査を実施するとは限りません。
甲状腺検査の実施手順
血液検査を行う場合、犬は後ろ足や前足、首の血管から、猫は内側の太ももや首の血管から採血します。採取した血液は外部の検査機関に提出し、T4やfT4の濃度を測定します。通常、結果は2〜3日ほどで出ます。
検査前の注意事項として、既に甲状腺ホルモンの薬を服用している場合、正確な測定ができないため、他院での治療歴があれば獣医師にお伝えください。
また、検査当日の朝は絶食が基本ですが、水は自由に飲ませても問題ありません。
甲状腺疾患の治療法
〈甲状腺機能低下症(犬)〉
不足している甲状腺ホルモンを補うために甲状腺ホルモン製剤を投与します。基本的に低下した甲状腺の機能を回復させる方法はないため、生涯にわたり治療を継続する必要があります。
〈甲状腺機能亢進症(猫)〉
抗甲状腺薬を用いた内科治療と、腫大した甲状腺や腫瘍を摘出する外科治療の2種類がありますが、一般的には内科治療を選択することが多いです。
甲状腺機能亢進症については、こちらの記事で詳しく解説しています
さらに、甲状腺機能亢進症の治療法として、放射性ヨウ素療法があります。これは、放射性ヨードの入ったカプセルを服用し、甲状腺細胞に選択的に取り込ませて破壊する治療法です。この療法は、欧米での標準的な治療法となっていますが、現在の日本の法律では実施が難しい状況です。今後、法律が改正されれば、日本でも普及する可能性があります。
定期検査の重要性
甲状腺検査は治療効果のモニタリングや、今後の治療方針を決定するために定期的に実施することが重要です。治療を開始した直後は1ヶ月に1回の頻度で血液検査を行い、その後も3〜6か月ごとに甲状腺検査を行って投与量の調整を行う必要があります。
また、甲状腺の病気を早期に発見するためにも、7〜8歳を超えた犬や猫には、最低でも1年に1回は甲状腺ホルモンの項目を含む血液検査と全身的な健康診断を受けることをおすすめします。
まとめ
・犬には甲状腺機能低下症、猫には甲状腺機能亢進症が多いです。
・犬は体重増加や無気力、猫は体重減少や多飲多尿などの症状が出た場合、甲状腺検査を行います。
・検査は血液検査(T4、fT4測定)や超音波検査で行います。
・治療は症状に応じて甲状腺ホルモン製剤の投与や抗甲状腺薬を用いた内科治療などを行います。
・早期発見と治療のために、年に1回の定期検査を行いましょう。
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